Pray through music

すとーんずにはまった元バンギャの雑記。

ラジオ小説『オートリバース』とHiHi Jets『ドラゴンフライ』をごちゃまぜにしての感想

4月25日までradikoで公開されていた『オートリバース』ディレクターズカット、何回か聴きました。

すごく良かったです。
1980年代の騒乱、自分が生きてきた時代じゃないのに没入していくことが出来て、幸せな体験だった!

もどってこない青春ーーこのラジオ小説の場合はアイドルにすべてを捧げて傷ついていく彼らがもどかしくて、一抹の寂しさを感じました。

特にHiHi Jetsの『ドラゴンフライ』がテーマ曲として作られた、というのがすごく良くて。

HiHi Jets担の方には申し訳ないのですが、メンバーについて語れるほどHiHiを追えてないので、あくまで『ドラゴンフライ』と『オートリバース』それぞれ聴いて思ったことだけ書いていきます。
たぶん私以外が読んでもそんなに面白くないですごめんなさい。

日本の古くからのイメージだと「トンボ=真っ直ぐ進む勝ち虫」。戦国武将・前田利家の兜にもトンボのモチーフが使われています。

でもそれだけじゃなくて、日本では「トンボ=蜻蛉=カゲロウ」の混同もずっと長いこと続いていました。例えば江戸時代、新井白石が著した物名語源事典『東雅』には、「蜻蛉 カゲロウ。古にはアキツといひ後にはカゲロウといふ。即今俗にトンボウといひて……」と、トンボとカゲロウが一緒くたになっていることがわかります。

カゲロウは成虫になると寿命がほとんど残っておらず、ゆらゆら風に揺られるように飛びます。成虫になったあとの寿命は、わずか数日。
その間に次の世代をつくらなくてはいけない。彼らカゲロウはそのために大きな群れを作って、命を残そうとします。

小泉今日子さんをトップアイドルに押し上げるために親衛隊を大きくしようとした高階のイメージに重なって、儚さを感じます。

でも、『オートリバース』で直から高階のイメージとして何度か出てくる「オニヤンマ」は、私にはどちらかというと猛々しいイメージがあって。
血気盛んに抗争に自ら踏み込んでいく高階は、日本のトンボで最大の種であり肉食のオニヤンマのイメージが重なります。

エメラルドグリーンの生命の火を燃やしながら生ききってしまったのが、"蜻蛉"のイメージがいくつも重なる高階だったんだなあと感じます。
多面的なイメージの"蜻蛉"。

で、『ドラゴンフライ』に行くと。
「海を飛ぶ僕らトンボ それを無理とも知らないで」って歌詞がすごくもどかしくて。
私はこの歌詞から、南方から海を渡って日本にきて、越冬できずに死んでしまうウスバキトンボのことも思い出しました。
彼らは寒さに負けてしまうのに何回も日本に渡ってくる性質を持っています。

ウスバキトンボは、海を越えてくることができるけど、それは死への飛行に他なりません。
なんだか、親衛隊を拡大しようとする高階ふくむ若者たちの姿に見えて、歯痒い。

「海の向こうへいければ 僕らドラゴンフライ
誰も行けぬと笑うんだ 僕らドラゴンフライ」

そんな若者たちを見て、"くさった蜜柑"と言ったのもこの時代。(1980ー81にかけて放映された、『3年B組金八先生』というドラマの第2シリーズで、荒れる中学生に向かって放たれた台詞です。)
大人たちは、若者を規定しました。荒れてどうしようもない、押さえつけるべき存在だと。

そういえば、オニヤンマの目の色は「エメラルドグリーン」でした。澄みきった海の色も、よく「エメラルドグリーン」だと評されます。

お前らは何にもなれない、しょうもない人間なんだと押さえつける大人たち。
そんな大人たちの言葉に負けそうになりながらも、エメラルドグリーンの海を越えて広い世界を目指す若者たち。

「僕はここ まだ誰にも嘘をつけずに
君はどこ 見上げる空の色を変えて」

でも、大人のように全部取り繕うことができるほど彼らは成熟していない。まだまだ子どもだからこそ、真っ直ぐに空を見上げることができる直と、未熟ゆえに暴走してしまう高階の姿を彷彿とさせる気がします。

「会いたい 会いたい 痛い この胸にあいた穴
会いたい 会いたい 痛い この傷がくれた夢」

そして何度も曲中で繰り返されるこのフレーズが辛くて。
すれ違っていって、最後には会えなくなってしまう高階への直の叫びにしか聴こえなくて。


すごく、『オートリバース』を聴いたあとだと重みの増す楽曲で、本当に良い曲を唄っているんだなあと思いました。

こんな素晴らしい曲を唄っているHiHi Jetsにも、ディレクターズカットを放送してくださったradikoの方にも感謝しかありません。

さきに『ドラゴンフライ』の曲を知って、そこから『オートリバース』を知って、どんなラジオドラマなんだろう?ともやもやするしかできなかった私に、素晴らしい物語を、音楽をさらに考える時間をつくってくれて、ありがとうございました。

HiHi Jetsのメンバーが、この曲の作曲や編曲、Youtubeにアップするまでの色々な作業をしてくださった方が、なにより素敵なお話・詞をつくってくださった高崎さん、ラジオ小説『オートリバース』の関係者が海を越えて素晴らしい景色を見られますように 。